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TOP頁へ戻る 東京桑野会の頁へ 会員親睦の頁へ 会からのお知らせ 故郷復興 熱い想いU 2012年5月

 奇しくもこの5月に東京桑野会会員より、故郷福島県の復興を願い、ぜひ発表してほしいという原稿が届きました。また、2012年6月1日(金)の定期総会にて「低線量の放射線の影響について」という講演会がありましたが、この内容についても併せて発表します。熱い想いTへ戻る。

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 「地震と構造設計」 
    斎藤 誠(81期)(株)エーエーアンドサン一級建築士事務所 構造設計一級建築士

■地震について
 日本は世界でも有数の地震国と云われており、世界中の1年間の総地震エネルギーの約10%が日本の国土およびその周辺海域で放出されている。日本列島、周辺には4つのプレート(北米プレート、太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピンプレート)が存在し、昨年3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震」(プレート境界型地震)はマグニチュード9の大きさであり、宮城県栗原市では震度7が観測された。当地震のエネルギーの大きさは関東地震(1923年)の7.9、兵庫県南部地震(1995年)の7.3より大きく、1900年以降世界で発生した地震で4番目に大きい。地震による大規模な津波が発生し、多くの尊い命が奪われ公共施設や建築物を一瞬にして押し流してしまったのは記憶に新しい。
 太平洋沿岸の埋め立て地や河川流域の砂層では大規模な液状化現象が発生した。長周期地震動の影響は震源地から遠く離れた東京のみならず、名古屋や大阪などでも観測され建築物の固有周期と共振した超高層建築物は、数分間に亘って大きな横揺れが観測された。
 マグニチュードとはアメリカの地震学者のリヒター(1900〜1985年)が考案した単位で、マグニチュードが0.2大きくなると約2倍、1大きくなると約32倍、2大きくなると約1,000倍エネルギーが大きくなる大きさを表す尺度である。関東地震のマグニチュードは7.9であったので今回発生した「東北地方太平洋沖地震」の地震の規模は関東地震の45倍以上の巨大地震であった。
 日本列島には現在知られているだけで約2,000の活断層が存在し、活断層がずれて発生する地震や新たな断層の発生に伴う地震は「内陸型地震」、「直下型地震」と云われ、マグニチュードの大きさはプレート境界で発生する地震エネルギーより小さく、最大規模はマグニチュード8クラスと云われている。因みに一つの活断層がずれて地震が発生する確率は数千年から数万年に一度程度である。
■耐震設計に関わる法制度の変遷
 1923(大正12)年の関東地震の翌1924(大正13)年に、世界に先駆けて市街地建築物に水平震度0.1以上とする規則が定められた。1950(昭和25)年には、建築基準法の改正が行われ水平震度も2倍の0.2以上と定められた。その後1968(昭和43)年の十勝沖地震による地震被害から、鉄筋コンクリート造の柱の帯筋間隔を従来の30cmから10cmに変更され、柱のせん断破壊防止策がとられた。
 1978(昭和53)年の宮城沖地震を契機に、1981(昭和56)年に建築基準法の耐震規定が大幅に改定された。いわゆる新耐震設計法と云われるもので、この基準の耐震性の目標は、@稀に発生する地震動・・中地震(建物の耐用年数中に数度程度遭遇)に対して、建築物の構造耐力上主要な部分に損傷が生じない。A極めて稀に発生する地震動・・大地震(建物の耐用年数中に一度程度遭遇)に対しては、人命を確保するため建築物の倒壊、崩壊などが生じないという2段階を設定しており、現在もこの設計法を準拠して耐震設計が行われている。
 1995年(平成7年)1月17日に発生した兵庫県南部地震や昨年3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震」の建築物の被害状況を見ると、1981(昭和56)年以前に建設された建築物には倒壊等の被害が多くあったが、新耐震設計法によって建設された建築物の被害はごく僅かであり、現行基準の耐震性の妥当性が立証されている。
■構造設計の重要性について
 建築物の構造は、台風や地震などの自然現象の脅威から建物そのものや人命を守る役割を担っており、地震国である日本ではその重要性が極めて大である。耐震偽装問題を契機に2009年(平成21年)5月27日から一定規模の構造設計には高度な専門能力を必要とする「構造設計一級建築士」の関与が義務化された。
 建築物の品質の確保は建築家だけではなく、それに携わる構造設計者によっても大きく変わり、事業主は信頼出来る設計事務所やゼネコンを選ぶ事が重要である。また、近年地震に対する耐震技術の発展も目を見張るものがあり、従来の耐震設計法に加え免震・制震の技術も選択肢の一つとして依頼する必要がある。


 「低線量の放射線の影響について」 
    野村 貴美(83期)東京大学大学院工学研究科特任准教授

 2011年3月11日の東日本大震災(東北沖マグニチュード9.0)および東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故によって一般環境に甚大な放射能汚染をもたらしてしまった。住民は避難を余儀なくされ、警戒区域の設定などにより、まだ帰郷する見通しも立っていない。原子炉そのものは冷温停止の状態になったものの大量の放射性物質の処理や拡散された放射能汚染の廃棄処分はまだ見通しが立たない。また、原子力災害によって多かれ少なかれ、拡散した放射能が至る所で問題になっている。
 原子力災害の初期には放射能に対する誤解した情報が流れた。たとえば、福島の子供に近づくと放射能が移る。6月になっても長袖でマスクの着用が必要。緊急時における非難や除染のための暫定基準値の設定など国民の理解が得られているとは言いがたい状況であった。今では、東北・関東地区の空間線量分布や放射能汚染の分布状況などが明らかにされてきたが、ホットスポットと呼ばれる局所的な汚染などにより住民の放射能不安は解消できていない。京都の五山の送り火「大文字焼き」に使用する陸前高田のたいまつ騒動。東北のがれきの広域処理に対する各地の対応。放射能への不安は様々な要因が考えられるが、その一因として、このように放射線の低い線量に対する理解が、十分に浸透していない現状が浮き彫りになっている。
 放射線は、致死量の放射線に被曝しても五感に感じない。それだけに量を知らないままに被曝すると大変危険なものといえる。しかし、いまや簡単な検知器で致死量の一千万分の一以下の非常に低いレベルの放射線でも容易に検知することができる状況にあり、防護の手段を考えることができる。
 人体への影響は、高い線量の被曝で現れる急性影響と、被曝してから数年から数十年後に現れる晩発性影響に分けられる。一方、皮膚の紅斑や脱毛、白血球の一時的減少には被曝線量にしきい値があり、それ以上で初めて影響が現れ、その影響を確定的影響と呼ぶ。しきい値がなく、被曝線量にしたがい影響の生じる確率が増加する増加すると考えられているものを確率的影響と呼ぶ。このような分類にしたがえば、がんは、晩発性影響、確率的影響である。
 ここでは、低い線量の放射線による生物・人体への影響について考える話題を紹介しよう。
 英国の放射線科医の発がんの調査では、はじめ他の医師のグループよりもがんの発生率が高かったが、被曝レベルを規制したら放射線科医のがん発生率が低くなった。放射線科医は低い線量を浴びていることから低い線量の放射線による影響の研究が始まった。図1は(当ホームページでは図表を非掲載)、低いレベルの放射線による生物への影響の例を示した。たとえば、自然放射線のレベルが比較的高い地区の住民には遺伝子の損傷が多く観察されるが、がん死亡率が低くなっていることが報告された。マウスの照射実験でも胸のレントゲン写真を撮る程度の照射量を毎日繰り返し照射した方がマウスの寿命が延びていることが分かる。ただし、放射線ホルミシスはヒトを対象にした疫学研究では、いまだにコンセンサスが得られず、放射線防護の考え方には取り入れられていない。
 分子生物学的には、図2(当ホームページでは図表を非掲載)のように放射線は、直接的にまたは水分子を介して間接的に遺伝子DNAに損傷を与えるが、生物に備わった修復機能によって損傷は絶えず修復される。修復に失敗してもほとんどそれ自体が死滅し、正常細胞だけが残る。
 たとえば修復に失敗した場合に次の2つの過程がある。一つは修復能以上の損傷が生じたために未修復の損傷が残ることと、もう一つは誤って修復してしまうことである。前者の場合はDNA複製やタンパク合成ができなくなり、細胞は死滅する。これは図2の「ネクローシス」に相当する。また、損傷の残った細胞内では自殺を誘導するシグナルが活性化する。これが「アポトーシス」である。一方、後者の誤って修復した場合は、遺伝子の塩基配列に変化が生じる可能性がある。変化した塩基配列が細胞内で固定化されれば遺伝子の突然変異となる。ヒトを例として、体細胞に突然変異が起これば「がん」、生殖細胞に突然変異が起これば「遺伝的影響」になる。ただし、ヒトでは、遺伝的影響は認められていない。
 一方、放射線をマイクロビームにして一個の細胞に照射すると、その周囲の照射されていない細胞にも応答することが認められる。これはバイスタンダー効果と呼ばれる。図3(当ホームページでは図表を非掲載)には照射効果がマイナスに大きく現れたとした場合を示したが、プラスに作用するかマイナスに作用するかもまだわからない。
 このようにして100mSv(ミリシーベルト)の被曝で2本の鎖切断が細胞に3個観察されたとしても修復機能、アポトーシスによって種が保存される。しかし、確率的影響の考え方から言えば、3個の損傷であっても、間違える可能性はゼロではないので、影響の確率もゼロではないということになる。線量が高くなれば発生確率が大きくなることも理解できよう。疫学的には、急性被曝で100mSv以上であれば、発がんのリスクは線量に依存して直線的に増加するという関係が認められ、それ以下(100mSv以下)では、被曝との因果関係を統計学的に検出することができない。
 このようなことで100mSv以下の影響との関係については、法令・規制値を定めるために放射線防護の観点から直線仮説が取り入れられている。そして同じ線量で長期にわたって慢性被曝した場合には急性被曝の約1/5とも言われるが、国際防護委員会(ICRP)は最大の1/2を採用し、自然発生の固定がんの30%に対して、生涯での放射線誘発がんによる死亡確率として100mSvで0.5%のがん増加に相当すると見積っている。
 国立がん研究センターの調べでは、100mSvの発がんのリスクは、図4のように生活習慣によるリスク、たとえば運動不足に比べても十分に小さい。100mSv以下で発がんのリスクがあったとしても、普段の生活を改善することの方が全体の発がんリスクを抑制する効果が大きく、がん予防には効果的であることが分かる。
【図4のみ抜粋】
図4: がんになる要因と相対リスク (国立がん研究センター)
1000〜2000mSvの急性被曝   がんになるリスク 1.8倍
喫煙または毎日3合以上の飲酒習慣   同上  1.6倍
痩せ過ぎ                    同上  1.29倍
肥満                      同上  1.22倍
200〜500mSvの急性被曝       同上  1.19倍
運動不足                同上  1.15〜1.19倍
塩分の摂り過ぎ             同上  1.11〜1.15倍
100〜200mSvの急性被曝       同上  1.08倍
野菜不足                   同上  1.06倍
 なお、規制の基準は、一般人に対して1mSv/年、職業人の基準は50mSV/年と異なって定められているが、これはベネフィットとリスクに関連したものである。一般人であろうが職業人であろうが、人体に対する放射線の影響そのものは変わらない。強いて申せば、50mSv/年が安全の基準で、1mSv/年が安心の基準と言えるかも知れない。なお、我々は、自然界から1.5mSv/年、医療被曝で2.25mSv/年を受けている。
 福島の放射線レベルの高いところに住む市民や除染作業する従事者の被曝リスクの軽減をはかり、一般人の放射線や放射能の不安を払拭させるための活動が各地で求められる。最後に福島県の早期復興を心から願う。

注) 本文は、2012年6月1日(金)に東京桑野会定期総会後に実施された野村氏の講演内容をまとめたものです。また皆さんが新聞等に見る放射線量は、単位がマイクロシーベルト(μSv)であり、本文中に示されているミリシーベルト(mSv)に比較すると一千分の一の量です。誤解のないようお願いします。


83期の野村貴美氏
83期 野村貴美


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